今後の医薬品業界を考える。「武田薬品のペイシェントファースト戦略からの示唆」

2020.1.23望月 英梨 氏
株式会社ミクス Monthlyミクス 特報チームデスク


既成概念にとらわれず自由な発想を活かしたい。私たちの会社では、こんな想いから外部講師を招き、セミナーを実施しています。

武田薬品ってどんな風に見えていますか?そんな問いかけからセミナーは始まりました。
シャイアーとの合併により売り上げの拡大がクローズアップされた一方で、この買収の意義は規模拡大だけではなく、アメリカ市場への進出が大きな意味を持っています。グローバルへの転換を図る武田薬品の取り組み、そしてそこから展望される今後の医薬品業界について伺いました。

講師:望月 英梨 氏

株式会社ミクス Monthlyミクス 特報チームデスク

2004年3月、東京薬科大学薬学部薬学科卒、同年薬剤師免許取得。06年4月より、医師向け業界紙の記者として、病院経営、学会などを取材。09年5月にエルゼビア・ジャパン株式会社Monthlyミクス編集部で、厚生労働行政、製薬業界、国際学会、病院経営など、医学・医療の取材に従事。17年7月より株式会社ミクスに所属。19年2月より現職。

エコシステムで医薬品開発に変化を

武田薬品のユニークな取り組みとしてShonan Health Innovation Park(湘南アイパーク)の設立が挙げられますが、そのキーワードは「エコシステム」です。エコシステムとは、イノベーション創造のために複数分野を融合させ、ヒト・カネ・モノを循環させるシステムを指します。湘南アイパークは、武田の名前をあえて付けず、医薬品業界に限定することなく、さまざまな企業を誘致しています。かつて、研究所というものはひどく閉鎖的で、隣の研究室が何をやっているかも分からない状態でしたが、そのイメージから一新し、さまざまな価値観・技術を集めることで新しいイノベーションを生み出します。
世界ではiPhoneのように、ある人の生活や行動を変えてしまうようなイノベーション、いわゆるディスラプティブ・イノベーション(破壊的イノベーション)が活発に起こっています。イノベーションを起こすには、複数分野の融合が重要と考えられ、例えば、2018年にAmazonはバーチャル薬局のPillPackを買収し、Amazonの物流網とオンライン調剤とを融合させました。
従来の医薬品の開発モデルは、あくまで製薬企業が基盤となっていましたが、エコシステムを構築することで、さまざまな団体・業界が相互に関係しあって、医薬品開発に変化をもたらします。

未病”を産業に

神奈川県は“未病”の考えを推進しています。蛇足ですが、日本語でのイントネーションは「みびょう(⤴)」、英語では「みびょう(⤵)」になるそう。これまで、ヒトの状態は“健康”と“病気”とで真っ二つに分かれていました。しかし、病気でなくとも健康でない状態の人は存在します。健康と病気の間に位置づけられる状態が未病であり、この段階で治療介入することで、医療費の抑制が期待されます。
未病の領域には多くの可能性が期待され、多くの企業がこぞって未病への注力を始めました。武田薬品は神奈川県と覚書を締結し、地域の活性化、最先端医療のより早い提供や未病の改善、健康寿命の延伸やヘルスケア分野の産業創出を図ります。神奈川県との連携により、武田薬品の主導するエコシステムに官庁が加わる形となり、医療分野だけにとどまらずヘルスケア全体の領域にまで変化が及ぶことが予想されます。

社会構造の変革と製薬企業の転換

製薬産業は長期収載品に依存するモデルから、より高い創薬力を持つ産業構造への転換が求められています。製薬業界にどっぷり浸かっている身としては、製薬業界にだけ厳しい目が向けられていると感じてしまいますが、実は、製薬産業の構造改革は社会変革の延長線上にあります。社会保障を持続するには、製薬業界のさらなる成長と、そこからの税収の増加が必要不可欠であり、経済成長を後押しする「良循環」を目指す必要性が強調されます。また、働き盛りの40~50歳代の生活習慣病などへの予防に対する取り組みを通じ、支え手を増やすことが必要で、社会構造の変革に合致した構造転換が求められています。そんな中、健康寿命の延伸に製薬企業はどう貢献するのか、そこが今後の製薬企業の在り方を考える上で、大きなポイントになるでしょう。
2019年5月にノバルティスファーマは世界初のCAR-T細胞療法・キムリアを上市し、既存治療で十分効果が得られなかった難治性疾患に対して奏効率が約8割と良好な治療成績を示し、一躍脚光を集めました。さらに、同剤の“Value Based”と呼ばれる新たな薬価体系を米国にて導入し、治療1ヵ月後に有効性が確認された場合にのみ支払いを行うという点も話題となりました。
こういったバリューに基づいた薬価体系の考え方は、実は国内の診療報酬にも一部導入されています。例えば、回復期リハビリテーション病棟入院料では、診療実績に応じた段階的な評価が行われており、また、再生医療等再製品の条件・期限付き承認を受けて早期に承認を受けたケースでは、承認後、医療上の有用性が客観的に示された場合に薬価が加算されることも考えられます。効果があって社会に還元できる製剤は、薬価が上がる可能性があるといえます。長寿社会にどう貢献し、医薬品の価値を高めていくかが、製薬企業にとって重要なポイントになっていくと考えられます。

(メディカル・ライティング部 増田 一樹)

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