デザインによる医療のアップデート戦略

2020.6.18吉岡 純希 氏
株式会社NODE MEDICAL代表取締役


既成概念にとらわれず自由な発想を活かしたい。私たちの会社では、こんな想いから外部講師を招き、セミナーを実施しています。

株式会社NODE MEDICALの吉岡純希氏は、看護師としての経験や視点を活かし、医療とデザイン・エンジニアリングを融合させたデジタルアートを医療現場に届けることで、医療上の課題解決に取り組まれています。医療系広告代理店である私たちにとっても、医療の領域におけるデザインの可能性を模索することは興味深く、また考えるべきテーマといえます。
今回、吉岡氏に「デザインによる医療のアップデート戦略」というテーマでご講演いただきました。ここでは、その一端をご紹介します。

講師:吉岡 純希 氏

看護師 / 株式会社NODE MEDICAL 代表取締役 / 慶應義塾大学SFC研究所 上席所員

集中治療室系と在宅で計5年ほど看護師として働き、臨床経験をもとにテクノロジーの医療現場への応用に取り組む。2014年より病院でのデジタルアート「Digital Hospital Art」をスタート。患者・医療スタッフとともに病院でのプロジェクションマッピングや、身体可動性に合わせたデジタルアートを制作・実施。2015年から、慶應義塾大学にて看護と3Dプリンタに関する研究「FabNurseプロジェクト」に関わっている。
https://nodemedical.co.jp/

医療におけるデザインの活用により人の行動変容が可能、ただし取扱いに注意

一見、関連が薄いように感じる「医療」と「デザイン」。実は密接に関わっており、特に医療の「安全」面において、デザインの影響は非常に大きいといえます。例えば、放射線治療装置のような医療機器において、人が操作するユーザーインターフェイス(UI)が、誤操作の生じにくい作り・デザインになっているかは、その治療やケアの安全面に影響を及ぼします。
また、医療におけるデザインの活用事例として、吉岡氏は「臓器提供意思表示カード」を挙げました。従来は、「臓器を提供する」意思が示されてる場合に限り移植が可能でした。しかし、改正臓器移植法の施行とともに※、同カードの作りを変更し、「臓器を提供しない」意思が示されていない限りは移植可能としたことにより、臓器提供数は増加したといわれています。
このように、医療とデザインの相性は良く、デザインの活用により人の行動変容も可能ですが、その取扱いには注意が必要と吉岡氏は述べます。つまり、医療において何らかの目的のためにデザインを活用すると、医療従事者の意思が強く反映されるため、その目的や結果が「本当に適切なものか」よく考える必要があるとのことです。

※2010年の改正臓器移植法により、本人が生前に拒否の意思を示していなければ家族の同意により臓器移植が可能となった。

「デザイン」は有形のものを「かたちづくる」にとどまらず、「インタラクション」を含む概念へ

次に吉岡氏は、歴史的な背景に触れながら、多様化・複雑化した現在のデザインの役割についてお話されました。今やデザインは、単に有形のものを「かたちづくる」にとどまらず、行為に対する反応(インタラクション)を含む幅広いものとなっています。「インタラクション」を伴うデザインのわかりやすい例として、人が近づくことで開閉する自動ドアなどが挙げられます。医療分野における事例としては、大阪大学附属病院の「真実の口」に手を入れるとアルコール消毒液が出てくる仕掛けが記憶に新しいところです。

医療上の課題を探り、人の介入では解決が困難な部分をデザイン・エンジニアリングが担う

吉岡氏は、こういったインタラクションを伴うデザイン・エンジニアリングを取り入れた魅力的なデジタルアートを医療現場に届けています。ただし、単に楽しいもの、面白いものを作るのではなく、あくまで医療上の課題に対してデザイン・エンジニアリングが担えるケアを考えることが重要と吉岡氏は強調されました。
医療の現場には、通常は人が担っているケアでもデザイン・エンジニアリングでカバーできる部分があり、さらには人によるケアでは解決が困難な課題が存在します。これらに対し、医療従事者とディスカッションをしながら、デザイン・エンジニアリングが提供できるケアを生み出していくことが医療の質の向上につながると吉岡氏は述べられました。事例として、「入院中の父親が娘に会うことができず、絵本の読み聞かせができない」というニーズに対し、遠隔で読み聞かせが可能な絵本型デバイスを提供したケースを紹介されました(図1)。これは、人の介入では解決が困難な医療上の課題をデザイン・エンジニアリングにより解決できた好例といえます。

吉岡氏は今後の展望として、医療従事者による医療ケア(医学的な治療、看護ケア)だけでなく、医療に関わるさまざまなステークスホルダーが連携のうえ、デザイン・エンジニアリングといった医療以外の選択肢も用いていくことが医療の質の向上につながると締めくくりました。

(メディカル・ライティング部 川勝 雅文)

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