つながる患者たち:患者支援の新しい形、ピア・サポートのこれからを考える

2020.8.6伊藤 智樹 氏
富山大学 学術研究部人文科学系(人文学部社会文化コース)教授
※ 本講演は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のため、オンライン形式で実施されました。


既成概念にとらわれず自由な発想を活かしたい。私たちの会社では、こんな想いから外部講師を招き、セミナーを実施しています。

近年、治療方法が確立していない疾患などの支援方法として注目を浴びているピア・サポート。ピア・サポートとは、共通の課題や悩みを持った者同士の支えあいのことを意味します。製薬企業の注目も集まりつつあるこの領域は、医療系広告代理店である私たちにとっても、認識しておくべきテーマと言えます。
今回、富山大学人文学部教授の伊藤智樹氏に「つながる患者たち:患者支援の新しい形、ピア・サポートのこれからを考える」というテーマでご講演いただきました。ここでは、その一端をご紹介します。

講師:伊藤 智樹 氏

富山大学 学術研究部人文科学系(人文学部社会文化コース)教授

千葉大学文学部助手、富山大学人文学部講師を経て、現在、富山大学学術研究部人文科学系教授として、ピア・サポートの研究に取り組む。
セルフヘルプ・グループ(自助グループ)研究から、人々がどのように病いを語るのか、その語りがどのように変化するのかに着目し、研究を展開。その後、ピア・サポートについて社会学からのアプローチを開拓し、現在は製薬企業の営業所にてピア・サポート研修の講師を務めるほか、Voluntary Healthcare Organization-net(ヘルスケア関連団体ネットワーキングの会)において、ピア・サポートの拡充や患者会リーダーの支援・育成も行っている。

https://bambooo.co.jp/index.html

ピア・サポートとは? 共通の課題を持つ者同士による支えあいの相互行為

伊藤氏ははじめに、ピア・サポートの定義を「ある人が同じような苦しみを持っていると思う人を支える行為、あるいは、そのように思う人同士による支えあいの相互行為である」とご紹介されました。ピア・サポートの会に長く所属し、相談にのることが多い“ヴェテランメンバー”であっても、自身の疾患や悩みを完全に克服しているとはいえない場合があります。そのため、相談にのっているつもりでも自身に関する気づきや再認識があり、実は自分も支えられているという互恵性を強調するために、ピア・サポートの定義でも「支えあい」と表現したとのことです。このように、相互行為のプロセスであり個人間のやり取りでも起こりうるピア・サポートと、組織として継続され社会的発信も行いやすい患者会はイコールではなく、時代背景に応じて変わり続ける患者会の中で、ピア・サポートは常に重要なものを示し続けてきたと伊藤氏は言及されました。また、1960年代以降、障がい者の自立生活運動が徐々に活発になり、障がい者の自立を援助できるのはリハビリテーションの専門家ではなく、経験豊富な障がい者自身だという考えが広がりました。このような援助的な相談を意味するものとして「ピア・カウンセリング」概念が生まれ、当事者性という点でさまざまな病いや障害のピア・サポートに影響を与えました。

アーサー・フランクの「回復の物語」から考える、ピア・サポートの役割と機能

次に伊藤氏は、特定の物語によってもたらされる思い込みやとらわれの一種としてアーサー・フランクの「回復の物語」をご紹介されました。「回復の物語(the restitution narrative)」とは、「昨日私は健康であった。今日私は病気である。しかし明日には再び健康になるであろう」という物語で、特徴として、①元の状態に戻るという結末、②病気はあくまで一時的な中断、③医療技術によって治療される受動的な主人公、が挙げられます。こうした物語は社会に溢れており、心地よく響くため好まれますが、「回復の物語」が当てはまらない場合に代わりとなりうる物語が少ないという問題があります。「回復の物語」が当てはまらない経験は非常に重いものであることが多く、患者の語りはショック、怒り、混乱などにより物語としての体裁をなさなくなってしまいます。こうした「語りの頓挫」は、やがて医療不信や人間関係の断絶などにつながっていくと考えられます。ここで重要な役割を果たすのがピア・サポートです。ピア・サポートでは、混沌とした物語でもまずは吐き出せることがポイントであると伊藤氏は強調しました。吐き出すことで楽になるという感覚を持つことで、他者に対して心を開いていくプロセスができます。語り手・聞き手両方にそれぞれの物語があり、相手の気持ちに同調することで、患者は自身の語りも受け入れられるものなのだという感覚を持ちやすくなるとのことです。

最近の動向:難病相談支援センターによるピア・サポーター養成

最後に、ピア・サポートを取り巻く社会的動向として、難病相談支援センターによるピア・サポーター養成についてお話しいただきました。国として療養生活環境整備事業を推進するために、地域で生活する患者等の相談・支援に関わる拠点として難病相談支援センターが法的に位置づけられており、その実施要項のなかで、ピア・サポートも推進されています(図1)。こうした社会的動向の中で、各製薬企業もこの分野に着目し、ピア・サポート研修や患者会の活動支援などを実施しています。伊藤氏も講師として活動に関わり、ピア・サポートの拡充や社会参加への関心、意欲が高い患者会リーダーの支援・育成に尽力されています。このように、患者会の自律性を保ちつつ、患者会で不足しがちな要素を支援しながら事業を共催していくという製薬企業の姿勢について述べられ、本セミナーを締めくくりました。

(メディカル・ライティング部 伊東 なな子)

Recruiting Information

メディカルライター、アカウントエグゼクティブを募集しています。
応募される方は、こちらをご覧ください。

ページTOPへ戻る