- 真和セミナー
【セミナー16. 講師:谷島 雄一郎 氏】あらたな患者活動のカタチ がん経験を価値に変えて未来をつくる
2021.4.6 谷島 雄一郎 氏
ダカラコソクリエイト 発起人・世話人/カラクリLab. オーナー
大阪ガス株式会社 ネットワークカンパニー 事業基盤部 コミュニティ企画チーム
ダカラコソクリエイト 発起人・世話人/カラクリLab. オーナー
大阪ガス株式会社 ネットワークカンパニー 事業基盤部 コミュニティ企画チーム
※ 本講演は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のため、オンライン形式で実施されました。
既成概念にとらわれず自由な発想を活かしたい。私たちの会社では、こんな想いから外部講師を招き、セミナーを実施しています。
当事者(患者さん)の視点を医療に、そして社会の未来にどのように活かしていくのかー
「ダカラコソクリエイト」発起人、Cafe&Bar「カラクリLab. 」オーナーである谷島雄一郎氏が、がん患者になって得た「当事者の視点」をどのように価値に変え、「あらたな患者活動」をカタチ作っていったのか。コロナ禍という現在の社会状況も踏まえ、その経緯や想いをご講演いただきました。
<講師略歴>
ダカラコソクリエイト 発起人・世話人/カラクリLab. オーナー
大阪ガス株式会社 ネットワークカンパニー 事業基盤部 コミュニティ企画チーム
がん患者になって得た「当事者の視点」を新しい価値に
第1子が生まれる直前に受けた健康診断でたまたま発覚したステージⅣのがんによって、これまでの生き方を見直さざるを得なくなったという谷島氏。がん発覚から8年間に14箇所もの転移があり、その度に手術や抗がん剤など様々な治療と副作用を経験しながら、いまも後悔のない最良の治療を模索し続けているといいます。その上で問題となるのが「お金」です。もし亡くなることがあれば残された家族が生きていくための備えが必要であるし、もし生き続けることができたら治療を継続できる生活の安定が必要です。同氏は働きやすい環境を自ら創出するため、自分の状況をまとめた資料(業務上できる/できないこと)を作成、周囲の理解を得ることで、会社の制度を柔軟に運用してもらうよう働きかけました。その活動は功を奏したものの、治療や仕事はあくまでも生きていくための手段に過ぎません。再発と転移を繰り返す中、がんである自分の生きた証をどのように残せるのかという切実な思いから、がん患者になって得た「当事者の視点」を、新しい価値に変えて社会に活かす「ダカラコソクリエイト」1) を発起することになります。
がん経験者ダカラコソできることをデザインする「ダカラコソクリエイト」の試み
「ダカラコソクリエイト」は働く世代のがん経験者を中心に、当事者視点で様々なイベントやプロダクトを企画プロデュースしています。具体的には、メディアや行政と共創したAYA※世代のがん患者さんのトークセッションや交流会といったイベントや、入院中でも我が子に本の読み聞かせができる「遠隔操作の絵本」といった患者の視点を生かした社会に役立つプロダクトの開発です。例えば3Dプリントの技術を活用した「めでぃかるガチャガチャ」(図1)は、患者さんにとってなじみ深い医療機器を、ネガティブなイメージを覆すカラフルで楽しいミニチュアにし、広く一般の目に触れることで、治療や患者さんの気持ちを身近な「自分ごと」として捉えてもらおうという意図で作られています。働く世代の患者さんが、社会に貢献したいという気持ちと創造力で、自らのがん経験を社会の課題を解決する「楽しさ」と「ワクワク感」のある価値に変えていく、それが「ダカラコソクリエイト」のプロジェクトなのです。
※Adolescent and Young Adultの頭文字をとったもので、主に思春期(15歳~)から30歳代までの世代を指す
コロナ禍で見えてきた「生きづらさ」とカジュアルに関われる文化の創出
「ダカラコソクリエイト」の活動の中で、「頑張らなきゃ居場所がない社会のしんどさ」を感じはじめた同氏は、次に「生きづらさをいちいち人に語らず、でも隠さずに生きられる」という世の中のあり方を模索し、生きづらさをカジュアルに語ることのできるCafe&Bar「カラクリLab. 」2) をオープンしました。がん患者さんや医療・福祉関係者だけでなく、一般の方も気軽に集える場所として、マスコミにも多く取り上げられました。そんな中、突然訪れたコロナ禍。店舗は休業に追い込まれ、また予定していたイベント等もキャンセルせざるを得なくなります。その一方、病気や障がいで「生きづらさ」を感じていた人々にメリットもありました。これまで切望しても叶わなかったリモートワーク、オンライン授業、オンライン診療等が、あっという間に実現に向けて動き出したのです。つまり限られた人が感じていた「生きづらさ」が、誰しもの「自分ごと」になった結果、スピーディーに社会が変化したのです。日常の「自分ごと」になった今こそ、がんをはじめとした「生きづらさ」をもっと身近に、もっとカジュアルに関われる文化を創りたいと、活動範囲を全国に広げて社会全体に発信するようになります。
あらたな患者活動:がんと社会との距離を縮め、がんと社会の関係性を変える
コロナ禍による社会の危機によって、経済合理性の視点で人がシステムに合わせていたこれまでの時代から、Well-being(幸せ)の視点でそれぞれの人に合ったシステムをつくる時代になりつつある現在、がん患者さんのあり方はどのように捉えなおすことができるでしょうか。同氏の考える「あらたな患者活動」とは、社会における「がん」のあり方を、患者さんの「中心」から、「一部」(図2)へと捉えなおし、デザインの力でその変化を起こすことです。そのデザインの根幹に①楽しさとワクワク感があること、そして②当事者だけでなく社会全体に価値を提供すること、という2点を据えることで、がんと社会の関係性を変えていきたいというお話で締めくくられました。既成概念にとらわれず、また困難を「やらない理由」ではなく「やる理由」とする、という同氏のパッションに、社員一同が感銘を受けたセミナーとなりました。
1)ダカラコソクリエイトHP[https://dakarakosocreate.com/]
2)カラクリLab[https://lab.dakarakosocreate.com/]
(メディカル・ライティング部 岸佑子)