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【セミナー21. 講師:佐藤(佐久間)りか 氏】「病いを生きる患者の語りが持つ力」~健康と病いの語り DIPEx-Japan(ディペックス・ジャパン)の活動から~

2022.6.14 講師:佐藤(佐久間)りか 氏
認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン

※ 本講演は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策のため、オンライン形式で実施されました。

既成概念にとらわれず自由な発想を活かしたい。私たちの会社では、こんな想いから外部講師を招き、セミナーを実施しています。

今回は、認定NPO法人健康と病の語りディペックス・ジャパンの事務局長を務められている佐藤(佐久間)りか氏(以下、佐久間氏)に、EBMと「NBM(Narrative Based Medicine、物語に基づく医療)」の概念を両輪として患者体験を伝えるディペックス・ジャパンの活動について、「病いを生きる患者の語りが持つ力」というテーマでご講演いただきました。私たち医療系広告代理店にとっても、病いの当事者である患者さんの声を聴くことは、より人々の心に訴える創作をする上で必要不可欠です。

講師:佐藤(佐久間)りか 氏
認定NPO法人健康と病いの語りディペックス・ジャパン

<講師略歴>
1982年東大文学部心理学科卒。91年米ニューヨーク大大学院アメリカ文化科修士号、
2008年米プリンストン大大学院社会学科修士号取得。07年4月より現職。
「健康と病いの語りデータベース」を活用した書籍『患者の語りと医療者教育――“映像と言葉”が伝える当事者の経験』(日本看護協会出版会)の刊行、教育プログラムの開発を行う。

患者体験を映像・音声で伝える「健康と病いの語りデータベース」

はじめに、健康と病いの語りデータベース(以下、語りデータベース)の概要についてご説明いただきました。語りデータベースは、集団を対象にエビデンスを集積して活用するEBMに対し、患者個人の体験も同様に有益な社会資源として提供することを目的に生まれたDIPEx(Database of Individual Patient Experiences) をモデルとしており、インタビューを通じて生み出された、映像や音声による患者さんの語りに、誰もがアクセス可能なウェブサイトです。各疾患で数十名の異なる価値観、様々な立場の語り手の体験を集め、それらをテーマごとに掲載しています。インタビューデータはサイトに公開されていない部分も含め、有償で学術研究にも利用されています。
DIPEx Internationalという国際共同プロジェクトについてもご紹介いただきました。その参加国では同一の手法で作られた語りデータベースが公開されているため、比較研究が容易にできるようになっています。

「健康と病いの語りデータベース」の4つの目的

佐久間氏によると、語りデータベースには大きく分けて以下の4つの目的がある、ということでした(図)。
・患者・家族に「病気や障害と向き合うための情報と心の支え」を提供する
・周囲の人々に「病いを患う」とはどういうことかをわかりやすく提示し、患者の社会生活の質の向上を目指す
・医療系学生の教育や医療者の継続教育に活用し、より全人的な医療、患者の立場に立ったケアの醸成を図る
・インタビューデータを研究に活用して“患者体験学”を確立し、医療政策・医療行政に患者の視点を導入する
また上記に加え、現在DIPExは「患者の病い体験」だけでなく、障害を持つ人の体験も盛り込み、介護・福祉の領域への貢献も目指しているとのお話もありました。

自由度の高いインタビューで収集した患者体験を、テーマごとに提供

な体験(一つの疾患で35~50名程)の収集に努めています。そのため、SNSや患者会等様々な手段を通じて患者さんを集めています。また、体験談の収集はアンケートではなくインタビューで行い、一人一人の患者さんの体験に耳を傾けることを大切にしています。加えて、可能な限り患者さんの生の声を届けるために、インタビューは最初のオープンクエスチョンから自由に話していただき、足りない部分をインタビュアーが補足するという、極めて自由度の高い形式をとっています。これにより、患者さんの主観や体験に根差した情報を提供できる点が語りデータベースの最大の特徴です。ただし、情報の質の担保を大切にしており、サイト内に載せる情報は医療者を含むアドバイザリー委員の目を通し、正しくない情報や他人の尊厳を傷付ける情報は流さないよう努めているとのことでした。
編集の際は初めからトピックを決めて、それに合ったビデオクリップを選ぶのではなく、データ解析によりトピックを抽出しクリップを選ぶという、マスメディアとは逆の手法をとっています。また、語りは時系列に並べるのではなく、トピックごとに各人の語りを横断的に提示しています。例えば、乳がんの「乳房再建」のトピックでは、再建をした人、再建をしないと判断した人各々の立場のクリップをみることができます。一つの疾患につき膨大なクリップがありますが、トピック別にわけられているため、必要な情報にすぐアクセスが可能です。語りを聞いた方がそれによって自分の中の想いに気付く、またはそれを言語化するきっかけとなり得る、それも語りデータベースのユニークな点である、と佐久間氏はお話されました。
最後に佐久間氏は、「体験したから伝えたいことがある、体験した人にしか語れないことがある」がDIPExのキャッチコピーであるとお話され、他にも外部へ向けた情報発信面等での課題等にも触れられました。EBMの視点に立つだけではなく、病いの当事者である患者さんの体験に耳を傾ける大切さを再認識する貴重な機会となりました。

ディペックス・ジャパンHP
https://www.dipex-j.org/

(メディカル・ライティング部 石橋 真理亜)

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